【レビュー】筋肉少女帯『一瞬!』– 「50を過ぎたらバンドはアイドル」、それを証明する35年の軌跡

好きなもの気になるもの

筋肉少女帯。
大槻ケンヂ率いる異端のロックバンドとして80年代から活動を続け、今もなお現役で第一線に立ち続けている。
その彼らが2023年、メジャーデビュー35周年を記念して発表したベストアルバム『一瞬!』。
タイトルの通り、過ぎ去る時間の中で放たれた“一瞬”の輝きを、2枚組全32曲に詰め込んだような一枚だ。


作品について(基本情報)

メジャーデビュー35周年を記念してリリースされた本作は、メンバー自身の選曲と監修によるオールタイムベスト。
「釈迦」「日本印度化計画」「踊るダメ人間」といった代表曲から、
「再殺部隊」「サボテンとバントライン」などの名曲まで網羅されている。

新録音3曲(新曲「50を過ぎたらバンドはアイドル」+セルフカバー「サンフランシスコ(2023ver.)」「高円寺心中(2023ver.)」)を含み、ファンにとっては“最新の筋少”を確認できる貴重な作品でもある。

またセルフカバーが存在する楽曲についてはそちらを優先して収録している印象だ。

ジャケットはお馴染みの衣装である特攻服姿のオーケン。
キラキラレインボーの刺繡が施されている。

  • タイトル:一瞬!
  • アーティスト:筋肉少女帯
  • リリース年:2023年6月14日
  • レーベル:徳間ジャパンコミュニケーションズ
  • ジャンル:ロック/プログレッシブ・ロック/オルタナティブ
  • 仕様:2枚組CD(全32曲)/新曲1曲+セルフカバー2曲を含むベストアルバム

収録曲

【Disc01】
16曲収録(01:10:39)
1.サンフランシスコ (2023ver.) [新録音源]
2.釈迦
3.日本印度化計画
4.踊る赤ちゃん人間
5.香菜、頭をよくしてあげよう
6.サボテンとバントライン
7.小さな恋のメロディ
8.オカルト
9.再殺部隊
10.サイコキラーズ・ラブ
11.バトル野郎~100万人の兄貴~
12.航海の日
13.ゾンビリバー ~ Row your boat
14.元祖 高木ブー伝説
15.月とテブクロ
16.ディオネア・フューチャー

【Disc02】
16曲収録(01:10:12)
1.50を過ぎたらバンドはアイドル
2.高円寺心中 (2023ver.) [新録音源]
3.混ぜるな危険
4.踊るダメ人間
5.イワンのばか ’07
6.機械
7.衝撃のアウトサイダー・アート
8.ドンマイ酒場
9.くるくる少女
10.暴いておやりよドルバッキー
11.マタンゴ
12.カーネーション・リインカネーション
13.Guru 最終形
14.エニグマ
15.週替わりの奇跡の神話
16.楽しいことしかない


好きなところ・印象に残った部分

このアルバムを初めて聴いたとき、真っ先に惹かれたのはやはり新曲「50を過ぎたらバンドはアイドル」。
このタイトルを見た瞬間、思わず笑ってしまった。
けれど聴き終わる頃には、その笑いの裏にある“深い真理”に唸らされる。

 ここ二週間の僕のトピックをあげるなら、「50を過ぎたらバンドはアイドル」という筋肉少女帯の新曲が完成した。
 「50を過ぎたら……」本当にその通りだと思っている。存在の非日常性、不条理感、幻想度……ウソっぽさ、すべてにおいて50歳を超えたロックはアイドル的だ。
 だって、そうでしょう。 本来なら若者のために作られた音楽ジャンルをがっつり初老になってまだやり続けているのだ。“ヤング”という基本概念と光の速さで乖離していくのは当然のことだ。
 社会への反発、大人への抵抗、そんなメッセージを50過ぎて叫ぶ者があるなら前者はメンドーなツイッター民だし後者はヘンなおじさんだ

――大槻ケンヂ「今のことしか書かないで」よりhttps://lp.p.pia.jp/article/essay/271343/273773/index.html

この曲は、単なる自虐ネタではない。
“ロック=若者の音楽”という価値観を軽々と飛び越え、
初老になってもステージに立ち続けること自体が、もはやアイドル的であるという開き直りと美学。
その姿勢が痛快で、聴いていて清々しい。

日本語ラップ・ヒップホップの大御所でラジオパーソナリティでもおなじみライムスター宇多丸氏に「ついにこの概念を言語化する人があらわれた」と言わしめた名作。

しかも、曲自体がめちゃくちゃキャッチー。
60近いメンバーがここまでフレッシュなサウンドを鳴らすのかと驚く。
言葉遊び、コーラスのキレ、演奏のタイトさ。
どれを取っても「老いてなお最前線」という言葉が似合う。

個人的に印象に残ったのはセルフカバー2曲。
特に「高円寺心中(2023ver.)」は昔から好きな曲だったので、現メンバーの演奏で聴けるのが本当に嬉しい。
自分も昔バンドをしていて、高円寺のライブハウスに出入りしていた時期があり、
歌詞に出てくる風景がなんだか自分とリンクして胸に沁みた。

そして、40年近く前の楽曲「サンフランシスコ」がいま再録されたことも象徴的だ。
ただ懐かしむのではなく、
“今の筋少”として鳴らし直している。
年齢を重ねた音の厚みと、変わらない熱量が同居していて、
ベテランバンドの役割を「ノスタルジーの供給人」とオーケンが以前言っていたのを見かけた記憶があるが、まさにその言葉を体現していると思う。


気になった点・もう少し語りたいところ

筋少は昔からセルフカバーが多いバンドだが、それは“過去の更新”というより“現在の証明”のように感じる。
「釈迦」や「日本印度化計画」のような代表曲がいまでもライブで盛り上がるのは、
それが“懐メロ”でもあり“今の彼ら”としても演奏されているからだろう。

また、アルバム発売後1年ほどしてサブスク解禁されたのも嬉しいニュースだった。
全32曲中16曲のみの配信とはいえ、
その中にはしっかり「50を過ぎたらバンドはアイドル」も入っており、
さらに公式YouTubeでライブ映像まで公開されている。
ライブでのオーケンのパフォーマンスは本当に楽しそうで、
“筋少の日”の空気感がそのまま伝わってくる。

活動再開から20年近く経っても衰えるどころか進化しているのがすごい。
リリース時点でメンバーはみな60歳手前。
それでも彼らの音楽には“若さ”よりも“生命力”がある。

「若者のためのジャンル・表現法をいつまでやるのか」みたいな話について、「お笑い」というジャンルで活躍している爆笑問題の太田さんもそのような事をラジオで話していたことがある。
太田さんは「退いて若者に道を譲った方が良いのかと悩むこともあるけど関係ない、死ぬまで現役でやる」のだそうだ。
浅井健一ことベンジーも、爆笑のラジオにゲストに出た時にロックをやり続ける事について語っていた。

筋肉少女帯 – 50を過ぎたらバンドはアイドル [LIVE]


まとめ

『一瞬!』は、ベテランバンドの集大成でありながら、
決して“回顧”ではない“今”のロックアルバム。
筋肉少女帯という存在自体が、すでに日本ロック史の奇跡だと思う。

「50を過ぎたらバンドはアイドル」という言葉には、
年齢を超えて音楽を続けることへのユーモアと誇りが詰まっている。

きっとこの先も、筋少は“楽しいことしかない”バンドであり続けるだろう。
そしてそれが、何よりロックだと思う。

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